食品製造業 × 実務経験 × 中小企業診断士
「裏側が汚れています」
「壁が壊れています」
「養生テープが貼ったままです」
会社員時代、工場調査に行くと、こうした“見た目の指摘”をする人が多くいました。
しかし私は、ずっと疑問に思っていました。
「工場調査で本当に見るべきものは何か?」
「工場調査とは何か?」と。
最新設備の工場でもトラブルは起きます。逆に、古い工場でもトラブルが少ないケースもあります。
すると、トラブルは、設備だけの問題とは言えません。
“人”の部分が大きく関与しているのではないか?
その想いが強くあったために、私は工場調査を「第三者が別の視点で危害分析(リスクアセスメント)すること」と定義していました。
例えば、「汚れている」「壊れている」そのような状況を目にしても、リスクが低いと判断すれば、敢えて指摘しませんでした。
きっと、担当者もそのことに気づいているはずです。気づいていながらも対処しないのは、「リスクが低い」と判断しているからだろうと。
もちろん、単にリスク意識が低いだけの可能性もありますが、私自身も現場を見て「これは低リスク」と判断するということは、“担当者の意識が低い=悪”とは限らない というのが経験上の結論です。
今回は、工場調査の在り方について事例をご紹介します。
【事例】
(1)取引先
取引関係の調査は、おおよそ書類チェックの後に行うこと(取引の話がだいぶ進んだ段階で行うこと)が一般的です。
しかし、ここには2つの問題があります。
① 指摘がないと叱られる
取引関係の調査は、会社の指示で業務として行っています。したがって、”問題なし”と報告すると、上司から「指摘なし?何しに行ったんだ!」と言われることも多々あります。その結果、”仕事をした”という事実を残すために、重箱の隅をつつくような指摘をすることで自己満足する担当者もいます。ただこれは相手にとって全く意味がない指摘になります。
② 取引中止は現実的に不可能
前述の通り、取引の話が進んだ段階で工場調査は行われますので、”取引する”という大前提があります。それを自分の判断で「No」と言うことによって、取引先と自社に多大な損害が発生する可能性があります。そもそも、外部認証や国の許可を受けている工場に対し、企業の一担当者が「No」と言って通るはずもありません。つまり、基本的に”取引する”という前提であれば、相手にとって意味がない指摘をすることは、長い付き合いをする上での障壁にもなり兼ねません。
「小さな指摘をしても、自社にも、その工場のためにもならないならば、そんな指摘をする価値はない」
そう考えています。というのも、経験則で恐縮ですが、これまで何十社と訪問させていただき、設備環境が完璧なケースはほとんどありませんでした。
そして、設備的な問題よりも、”人”の方が大丈夫か?と疑わしく思われるケースの方が圧倒的に多くありました。
例えば、こういったケースがありました。
その工場は、引率者の方の説明はしっかりされ、「なるほどなぁ」と感心していましたが、従業員の方に話しかけると口ごもりました。あくまでも推測ですが、こういった工場は、トップダウンで意見が言えない組織であることが多く、貢献意欲も低い傾向があると感じています。
また、非常に丁寧に作業されており、これならば大丈夫だと安心していましたが、よくよく考えてみると、その作業スピードでは、事前に聞いた1日当たりの生産量に達しない計算になることがありました。つまり、お客様に見せるために、普段よりも作業スピードを落とし、丁寧に作業している様子を確認させようとしていました。
そういった経験もありますので、工場調査で見るべきところは、目に見える部分ではなく、目に見えない部分であると考えます。
(2) 改善支援の監査で見るべき“裏側”
5Sができていない、モノが乱雑…よくある光景です。
しかし、私は「5Sができているから良い」と判断するのではなく、「5Sが自然にできている工場は従業員の精神的な部分がしっかりしているから良い」と考えています。
例えば、5Sができる人は、ムリ・ムラ・ムダに気づきやすい、人が嫌がる面倒なことを進んでやっている。その結果として改善が進んでいるだけです。なので、「5Sしたけど手間ばかり増えて良くならない」との声を聞く方が圧倒的に多くあります。
つまり、本質は “5Sができない環境” と言う点にあり、忙しい、この方が早い、誰もやっていない など、こうした“人の問題”を解決しない限り、現場が良くなることはありません。
だからこそ、改善支援の調査では、現場の「そのものの姿」ではなく、「その姿を生み出している背景」を読むことを大切にしてきました。
これらの原因は、「調査の目的が曖昧であること」「実施者の育成ができていないこと」にあります。
現場の立場からすると、自己満足の指摘ほど腹が立つものはありません。
特に、工場経験がない人が、理論だけで“あれもダメ、これもダメ”と言うと、現場は反発します。
だから私は、
「第三者が別視点で危害分析する」
「指摘が相手の何のためになるかを明確にする」
この2つを徹底してきました。
そして、従業員の方に質問し、そのの意見を聞き、納得できるところは指摘しませんでした。逆にしっかりした意見を持っていることに安心感を覚えました。
また、冒頭で”小さなことは指摘しない”と記載しましたが、従業員の方と話をし、「修繕したいのに会社が許可しない」という声があれば、あえて指摘に入れることもありました。
それが従業員のためになると判断したからです。
【教訓】
正直な工場ほどトラブルが少ない
どれだけ機械化されても、製造には必ず“人”が関わります。
だからこそ、従業員の想い・貢献意欲が高い工場は強い。
工場に入った瞬間、従業員が一斉に挨拶するという不自然な光景を目にしたことがあります。これはきっと、朝礼で指示されたのでしょう。
そうではなく、こちらが「こんにちは」と言い、それに自然に挨拶してくれる工場は、組織と従業員の関係が良い証拠です。
「言われたから挨拶する」のではなく、「自然と挨拶が出る」状態。
それこそが本当の従業員教育の賜物です。
知識優先の高額なコンサルや研修よりも効果があります。
そのような経験があるため、今でも企業支援を行う際は、“組織と従業員の関係性” を最も重視しています。