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M&Aは企業を幸せにするか?

  • 2023年9月18日
  • 読了時間: 10分

更新日:2025年10月19日

少子高齢化や情報技術の発展により企業の淘汰が進んでいます。外部環境の変化を受け成長戦略の見直しや事業承継などを理由にM&Aが行われる機会も多くなりました。果たしてM&Aにより企業は幸せになるのか?ちょっとしたフィクション事例を作ってみました。



背景(設定)                                        


A社は食品製造業を営む創業70年の中小企業でした。地元での知名度は高く、業績は安定していました。しかしながら数年前にM&Aを受け経営権を失いました。M&Aを仕掛けた企業はA社と同じ業種業態の商品を取り扱う子会社Bを有しており、M&Aの目的はA社と子会社Bとのシナジー効果を期待しての経営統合(水平統合)でした・・・。


ポイント1 商売の仕方                                   


一般的にメーカーの販売ルートには、メーカーから販売者(加工者)に商品を直接的に販売するケースと、問屋を介して間接的に販売するケースがあります。問屋を介する販売ルートは経路を短くすることができますので、メーカーは効率的な販売が可能になります。しかしながら、問屋が必ずしもすべての販売者と取引するとは限りませんので、販売者にとっては欲しい数量、価格、タイミングで仕入れる機会が減ることになります。

A社は、販売者の要望を聞き入れるべく、ルートセールス、つまり直接的な販売ルートを採用していました。これは、生産効率を落としてでも大手が参入できないニッチな生存領域で事業を展開するという差別化戦略になります。

子会社Bは、A社の販売ルートとは異なり、問屋を介する販売ルートを採用していました。問屋を介して販売する際、販売先への配送は、問屋がおこなうことになりますので、メーカーは問屋が指定する物流センターへ商品を納品するだけでよくなりますので、生産効率は高まります。これは、大手が採用している戦略になります。


M&Aによるシナジー効果を高めるためには、販売ルートが異なる2社のいずれかに統一する必要がありました(=拠点、営業スタッフの削減)。

営業生産性(売上高に対する営業拠点スタッフ数)を計算すると、当然ながら、子会社Bが高くなりますので、販売ルートは子会社Bに統一するよう指示が下され、A社は商売の変更(戦略の変更)を余儀なくされ、売上高は落ちました。


同じ業種業態であっても戦略が異なれば、経営指標に違いがでることは普通にあります。

経営指標を用いて評価・判断することは大切ですが、各社の販売戦略を鑑みず、効率優先で物事を決定することには注意が必要になります。


ポイント2 物流拠点の選択                                 


一般的な物流ルートは、製造業者⇨物流会社⇨販売者であり、販売者が求める受発注システムや納品時期などの要望を物流会社や製造業者に求めることもあります。

システムで繋がっている以上、商品番号や価格などの情報を複数社で共有することになりますので3社間には強い信頼関係が構築されます。


物流会社には、各都道府県に拠点を有し、全国にネットワークを構築している大企業とは別に、各都道府県内の各市町村エリアを網羅する地元の有力な中小企業の2種類が存在します。

販売者が全国展開している大企業の場合、当然ながら、物流会社も大企業を指定し、その物流会社を利用するよう製造業者に指示することがあります。上述の通り、システムで強い信頼関係を築いている以上、いちど組み込んだ仕組みを大企業側で変更することは容易ではありませんので、新たに販売ルートに参加した製造業者が従うことは当然と言えます。

一方、販売者側からの指示が無い場合は、自社で物流ルートを築くことになります。

物流会社が大企業である場合、各都道府県内の物流網が整っていないこと、またメーカー側の都合でロットや日程変更などがあっても、その融通が利かないことが多々あります。従って、自社の規模に応じた、地元の有力な中小企業を選ぶこともあり、その中小企業と構築してきた物流ルートや信頼関係、システムができることになります。



A社は、販売エリアの大半が地方都市でした。ゆえに拠点を置いている各都道府県内で有力な物流会社を採用することによって、欲しい数量、タイミングで自社倉庫に商品が確保できたため、販売者の要望に合わせてルートセールスすることができていました。

子会社Bは、販売エリアの大半が全国都市でした。当然ながら、各都道府県に拠点を有し、全国にネットワークを構築している大企業を採用していました。


M&Aによるシナジー効果を高めるためには、物流会社を統一する必要がありました(=物流費の削減)。

子会社Bは、全国都市に販売し、大企業を採用していますので、当然ながら、物流に関する単価は安くなります。その結果、販売ルートは子会社Bに統一するよう指示が下され、A社はB社と重複するエリアにおいてはB社が採用している物流会社へのの変更を余儀なくされ、売上高は落ちました。


同じ業種業態であっても販売エリアが異なれば、経営指標に違いがでることは普通にあります。

それを、全国にネットワークを構築している物流会社を採用することでシナジー効果を求めようとしても実現に向けては労力とサービスの低下、トラブル発生リスクが高まる点に注意です。

特に、各地で有力な物流会社との関係を断つということは、これまで築いてきた強い信頼関係が無くなることになりますので、物流費用以上の何かを失うことになります。


ポイント3 商品名(記号)                   


一般的にメーカーは、商品を商品名やコードで管理しています。

商品名やコードの作成には標準化されたルールがあるわけではありませんので、各社が独自に試行錯誤した末の規則性に基づいたものになっています。


A社は、得意先数や商品数が増えるにつれ、都度商品名を考えていては非効率的になることから、ひとつの商品名から枝分かれで類似した別の商品名になったり、サイズ違いで別の商品名にするという一定の規則性に基づいた商品名をつけるようにしていました。

B社は、大会社向けのPBを中心に商品を製造販売してきた関係上、A社ほどアイテム数が多いわけではなかったため、都度商品名を決めていました。


M&Aによるシナジー効果を高めるためには、商品名、コードを統一する必要がありました(=販売機会の増加)。

A社と子会社Bの商品名の管理方法は長年に渡る試行錯誤の結果であるため、それらを統合させることは容易ではありません。2社の商品名を統合しようと思えば、ゼロから規則性を考え直し、さらにデータベースも変更させる必要がでてきますが、それらは得意先や物流会社、工場内とも紐ついていますので簡単にリセットできるものではありません。

それを効率を求め統一管理しようと考えても簡単にできるものではなく、実現に向けてはかなりの労力とトラブル発生リスク、莫大なシステム開発費を要する点に注意が必要になります。


ポイント4 モノづくりへのこだわり                


商品は、企業の考え方に基づく差別化要因になります。高い原材料を使い、手間をかけている商品もあれば、画一化された原材料で手間を省いた抑えた商品もあります。


A社は、原材料にこだわり、手間をかけて商品を製造してきました。そのため小ロット生産がメインになっていました。原材料は高くても品質の良い自社スペックを購入し、さらに工場内でも人手をかけて原材料の品質選別をおこなっていました。添加物はできる限り使用しないよう心掛け、昔ながらの製法で愚直に製造をおこなってきました。

B社は、A社のような考え方はなく、効率を求め製造コストを下げることで価格競争に勝つことに力を入れていました。


M&Aによるシナジー効果を高めるためには、製造方法を統一する必要がありました(=製造コストの削減、製造機会の増加)。


同じような商品を製造している工場であれば、原材料や製造機械が共用できますが、戦略が異なれば商品ストーリーに違いがでます。生産効率を高めることは大切ですが、効率だけで生産戦略を決定するには注意が必要になります。



ポイント5 経営指標の選択                                 


企業の存在意義のひとつに地域貢献があります。

地域貢献としては、納税、ボランティア、地域スポーツや文化への協賛など様々な方法があり、雇用創出や地元企業との付き合いもそのひとつになります。特に雇用に関しては、正社員を増やすことで雇用を安定化させることも必要になります。


A社は、地元に根付いた企業でした。外部環境が変わり効率が求められる時代においても非正規ではなく正社員を増やすことで地元貢献に努めてきました。尤も地元貢献をさらに活性化しようと思えば、企業の内部留保を増やし、その資金を投資に回すことで全国的に有名な企業になることができれば地元はさらに発展し雇用も増やせるとの声があるかもしれませんが、そのためには戦略の見直しが必要になります。全国的な企業になるということは競争相手がリーダー企業になりますが、中小企業は大手企業のような資金力はありませんので、追従することはハードルが高いと言えます。

B社は、正社員より非正規社員の数が多い傾向がありました。ゆえに売上高人件費率(売上高に対する人件費の割合)は子会社Bの方が良好ということになります。


A社は、定額的な投資を毎年おこなってきました。それは地元との関係を深め、将来的に会社を存続させるための種蒔きという考えがありました。

B社は、コストアップにつながることから投資は積極的におこなっていませんでした。


例えば設備投資(既存設備の改良含む)を行えば償却費が、また新規正社員を採用すれば人件費が、宣伝広告すれば経費が掛かることになります。ゆえに売上高固定費比率(売上高に対する固定費の割合)は子会社Bの方が良好ということになります。

一般的な経営指標のひとつに付加価値額があります。付加価値額は営業利益だけではなく人件費と償却費も加えた額になります。それは地域経済の発展は自社の利益だけで達成されるものではなく、地域の雇用確保と周辺企業への経済効果も考慮する必要があるからです。その付加価値額で評価した際はA社の方が良好ということになります。


経営指標には収益性、効率性、成長性などがありますが、一義的な指標だけで評価することには注意が必要になります。


まとめ                                           


例えば「お客さまの食卓に満足をお届けします」とのビジョンを掲げたC社とD社があったとします。

仮にC社は価格を安くすることで満足を届けたいと考え、D社は価格は高くても食べたときの満足を届けたいと考えていれば、同じ業態業種でかつ同じビジョンであったとしても企業として進む道は異なってきます。

上記で解説したA社と子会社Bの状況をひとことで表すとC社とD社ほどの違いがあり、それらを統合することが可能であるか?そして統合によりWinーWinの関係が築けたのか?という視点で企業が幸せになったのか否かを評価していただければと思います。


M&Aのデメリットには「企業文化の非融合」「旧社間の対立」「従業員の心理的不安・不満」「新たなシステム・ルールによる混乱」があります。

企業文化は長い年月をかけ暗黙知に共有されたものであり価値観や信念として従業員の行動や考え方に影響を与えます。つまり各企業が自社の独自性(アイデンティ)を築き、全体最適を図った完成形が現在の状態であると言えます。

従って、企業ごとに「戦略・戦術」「機能別組織の強み」「販売商品の強み」「販路の強み」の違いがあることは当然のことであり、それをひとつの組織に統合し、その新組織の全体最適を図ろうとすれば、各社の全体最適が崩れることによって各社の強みが活かしきれず総崩れとなる危険性があります。

その危険性を回避するためには各社の全体最適や強みを超えた新組織の全体最適と強みが構築されなければなりません。

また仮に、各社の全体最適や強みを超えた新組織の全体最適と強みが構築されたとしても、実行するのは従業員です。従業員の理解と協力が何よりも重要になります。どれだけ素晴らしい戦略があっても従業員が動かなければ絵に描いた餅になってしまう点は注意が必要になります。

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