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PMIの失敗

  • 2025年10月30日
  • 読了時間: 6分

M&Aを仕掛けた企業(以下、買収企業)は、傘下に収めた企業(以下、被買収企業)に自社の社員を役員待遇で派遣し、場合によってはその社員を社長に就任させることもあります。買収企業が被買収企業をグループとして統制が取れるか否かは、この社長の舵取りに掛かってきます。ちょっとしたフィクション事例を作ってみました。



背景(設定)                                        


A社は食品製造を営む創業70年の中小企業でした。地元での知名度は高く、業績は安定していました。A社は創業以来、自社の利益よりステークホルダーとの関係を大切にし、自分たちが社会に認められる存在であることに誇りを持っていました。その裏には「良いモノを創って、良い関係を築いていればお客さんは裏切らない。何かあったときに助けてくれる」との考えがありました。しかしながら数年前にM&Aを受け経営権を失いました。その後、買収企業が所有している複数社と合併することとなりましたが、うまく統制が取れませんでした・・・。


ストーリー1 企業風土の不一致                               


買収企業はA社を買収してから5年後に、A社と、同じ傘下のB社、C社、D社を合併し、新たにE社を設立しました。

A社は、もともと大手食品メーカーの傘下にありましたので、大手企業と同等の管理がなされていました。またB社とC社は、もともと上場企業から事業部ごと独立し、その後買収された企業でしたので、もとから大手の管理がなされていました。一方、D社は、大手食品メーカーの傘下に入ったことはなかったため、他企業のような大手企業の管理はなされていませんでした。

同じ食品会社とは言え、各社は成長の軌跡や強みが異なりますので、販売戦略のほか、製造手法、品質・食品安全に関するスタンスも異なっていました。

各社とも『自分たちの考えは正しい』と言うことを疑いませんでした。


戦略的なM&Aを受けたものの、これまで問題なく事業継続できていたわけですので、それは当然のことです。各社の信念は、全従業員に企業風土として染みついていましたので、新たな会社を設立したからと言って、考え方を簡単に変えることはできるはずもありません。



例えば、年齢や育った環境、価値観が全く異なる4人がチームになって、何か新しいことを決めようととした場合、各人が言いたいことばかり言って、うまく意見を纏めることができなかった経験はないでしょうか?

そのような場面では、中立的な第三者の存在が不可欠になります。


今回のケースでは、買収企業がE社に第三者として入り、自社の管理・体制を指導すべきでしたが、残念なことに買収企業は食品事業の経験はなく、食品事業を展開するうえでの知見が全く無かったため、各社の考えをまとめ上げるはできず、逆に”食品事業のことを知らない素人の考え”ということで、各旧社は聞く耳を持ちませんでした。

最終的には、「各社ともそれなりのバックグラウンドがあるから、おおきな問題は起こらない・起こさないだろう」との判断から、買収企業は静観し始めました。

こうしてE社は、名前だけの会社となり、各社が旧社の理念(合併前の管理)で営業するという統一感が全くない状態で事業展開を続けることになりました。



ストーリー2 本部動く                                   


E社を設立して2年が経過したころ、買収企業は統一感が一向にみられないE社に、しびれを切らし、本腰を入れてE社としてのあるべき姿を創造するために、食品業界での職務経験がある専任の担当者をE社に送り込みました。

しかしながら、うまくいきませんでした。

その理由は、専任された担当者が「成果を出すことよりも実施すること(=一生懸命やってます感をアピール)」を最優先させたからです。

なぜ、そのようなことを優先させたのか?答えは、簡単「出世のため」です。



E社には、D社を除くバックグラウンドがしっかりしたA~C社がいます。

バックグラウンドがしっかりしていないD社に対しては、体制を築くところから始め、現場に出向き、手取り足取り指導することが必要になります。

しかしながら、残りの3社は、それなりの体制が取れていますので、各旧社のキーマンを中心に意見を聞き、意見が対立する時の仲裁として折衷案を提示し合意を得る。あとは決定事項が履行できるよう支援で十分でした。


それにも関わらず、その担当者はいずれの旧社に対しても同じ手法を採用しました。現場を回っては、各旧社の職制を超えて手取り足取り、指摘や指導していきました。当然、旧社の各担当は、自分たちの考えを無視して好き勝手に指導されることを面白く思っていませんでした。

そして各旧社のキーマンに対しては「現場の負担にならないよう自分も手伝う、本部として協力する」など、相手を怒らせないようきれいごとを並べたうえで、最終的には、”しっかり管理できている”と褒めて帰るものですから、各旧社の現場は、自分たちの正当性が認められた、正しい(=変える必要がない)と理解し、より一層、他社に合わせるような動きにはなりませんでした。


そんなある日、E社のキーマンが勇敢にも、

「あなたが言う”あるべき姿”は理解できる。でも現場のモチベーションが高まらない限りは実現不可能。現場は、人手不足、時間不足と言った状況がある。モチベーションを高めるためにまずは経営層に対して本部から資源の支援要請をしてほしい。

それに現場に良い顔ばかりされては牽制にならない。本部として厳しい姿勢で監視してほしい。

また現場はこちらが管理するので、あなたは、現場指導ではなく、組織の上層部を指導し、組織が有効に機能するよう努めてほしい」

と主張したところ、その担当者は、

「そもそも管理者がしっかり現場管理できていないから、こちらが動いている。

現場に入る理由は、現場を慮ってのこと。

それに、自分たちが言い難いからと言って、こちらに頼ってくるが上層部に対して上申しているのか?

本部や各社の上層部とのやり取りは、あなたの想像を超えるプレッシャーがあって大変なことを全く理解していない。

組織に属する以上、本部の指示には従うことが当然ではないか」

と回答。以後、関係が悪くなり、その数か月後に、そのキーマンは異動させられました。


ほんとうに会社を良くしたい、そんな気持ちを持った人は、この会社には必要ないのでしょう。

後日談ですが、本部から送り込まれた専任の担当者は、E社の統一感を高めることはできなかったものの、現場指導に関する立派な報告を上層部に行うことで、これだけ一生懸命取り組んだのだという好印象を残して現状維持。E社のキーマンは会社を去りました。

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